完盗オンサイト
2011年、応募時タイトル「クライミングハイ」が初応募で第57回江戸川乱歩賞を受賞。15年ぶりの女性受賞者として、一躍脚光を浴びる。
あらすじ
フリークライマー水沢浹(みずさわとおる)は、恋人であるとともにクライマーのパートナーだった伊藤葉月(いとうはづき)と別れ帰国した。
金銭的に行き詰っていた浹は野宿をしていたが、ひょんなことから寺に住むようになる。
そこには、住職の岩代辿紹(いわしろてんしょう)と、斑鳩(いかる)という名の四歳の男の子が住んでいた。
職の無い浹は、辿紹と共に建築現場の作業員として働く事に・・・
現場作業員として働く浹は、昼休みにクライマーとしての自分の体がなまらないように、工事用エレベーターの支柱でクライミングの練習をしていた。
しかしそれが原因で、ビルの建築主「國生地所(こくぶじしょ)」から“クビ”を言い渡される。
だがそこには國生地所の会長「國生肇(はじめ)」と社長の「國生環(たまき)」による陰謀が隠されていた・・・
一方、クライミングの元パートナー伊藤葉月が帰国する。
浹の留守中にたまたま浹が暮らす寺を訪れた葉月は、部屋に置いてある物に興味をひかれる。
そして彼女は思わぬ行動に・・・
ここからは私の読後感想です。
若干“ネタバレ”も含まれます。
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“仕事”について
皇居へ侵入して盆栽を盗み出すという発想がすごいと思いました。
でももっとびっくりしたのは、盗み出した盆栽の“始末”。
金持ちの考え方ってこうなんでしょうか。
浹
子供嫌いだった浹が、徐々に斑鳩の事を好きになっていく様は、すごく理解できます。
どうしても斑鳩を母親の元に戻してやりたいという気持ちには、こみ上げるものがありました。
一億円の“仕事”を2千万円で引き受けた浹にはちょっとびっくりしましたが、葉月の「私が見ている未来に、浹はいないの」という言葉に相当ショックを受けたんでしょうか。
葉月
結局“仕事”は出来ませんでしたが、これで良かったのではないでしょうか。スポンサーも付いたし。
エピローグで葉月の気持ちが書かれています。
最後に「悔しいけど、一生忘れない。」という彼女の心の叫びが、浹への思いを素直に表現していると思います。
斑鳩と両親
人格崩壊しつつある斑鳩の父親「瀬尾貴弘」の生活・行動が結構細かく書かれていますが、母親の「津川愛子」については最後まで多くが書かれませんでした。
斑鳩が無事愛子の元に戻れたことも含めて、愛子についてももう少し書き込んでほしかったと思います。
斑鳩には逞しく生きてほしいです。
そして私は・・・
先日とある城跡公園に行きました。
そこにはこの「完盗オンサイト」に出てくるような巨石を積んだ数メートルほどの石の壁がありました。
おもわず手をその壁について「なんか登れそうだな~」なんて訳のわからないことを思いました。
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